*第一話*桜花を鎮静せよ!

3/58
前へ
/84ページ
次へ
──ニ週間程前。 それは僕、依咲侑真が県立神條高校に入学した後の四月の中旬。 今日は週の始めの月曜日で、外は暖かい陽気に包まれていた。 玄関に向かう廊下の途中、庭の桜が僕の目に入る。 僕の家は古風な木造建築で、今風の家とはちょっと違う。 庭には嗜(タシナ)み程度の庭園があって、梅や桜などの季節の木々が植えられていた。 「あっ、桜が……」 見事満開に咲いていて、心地良い朝だった。 「では、行って参ります」 「侑真」 丁度、玄関の戸を開けようとしたとき、見送りに出て来た父に呼ばれた。 何だろうと父の方を見やる。 「侑真、よーく学校を見てきなさい。特に、古い染井吉野をな」 「桜を?はい、お父さん」 「気を付けて行っておいで」 ニコリと寛容のある笑顔で、僕を見送る父。 「?はい、行って参ります」 それを直ぐに理解することは出来なかったが、僕は取り敢えず学校へ向かうことにした。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加