*第二話*雨夜、燐火灯る時に

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「行くぞ?」 秋がコクリと頷く。 一歩足を踏み出し、地面に着くのと同時に俺はオンという言葉を呟いた。 けれどそれは言葉に出して言うのではなく、口の中だけ。 空気のように。 通り抜ける風のように。 (何も考えるなよ、アキ) 何事もなく通過できることを祈りながら、秋の腰を押して前に進んだ。 足早に、かつ自然体に電柱の前を通過していく。 そして、そのまま電柱から百メートルくらい先まで無言で歩き続けた。 「……もういい、かもな」 そっと俺が呟くと、隣から盛大な溜め息が聞こえる。 電柱からはかなり離れた。 きっと振り返っても、小さくしか目には映らないはず。 だが、まだ気配は消えてない。 残った瘴気が体にまとわりついていた。 「し、靜……平気そう?……はぁ、怖かった~……」 困ったように苦笑する秋に軽く頷きながら、俺は気を張り巡らせる。
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