深夜の病棟

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 深夜の病棟の奥で、御堂琢磨は、ふと誰かの視線を感じた。  琢磨は後方を見回した。 (……気のせいか?)  自動販売機のブレンドコーヒーの選択ボタンを押した。  廊下の非常灯の柔らかな光と自動販売機の薄暗い光が交錯する中、金属フレームの眼鏡をかけた琢磨が 『フーッ』とため息を漏らした。 (それにしても、なんという運命なんだ!)  琢磨は、心の中で嘆いた。  今日の夕方、最愛の一人娘、亜希の命が、ここ一週間が山場だと担当医から告げられた。  持病の心臓病の他に、すい臓癌が全身に転移して手の施しようがないということだった。   亜希は、15歳の時に本格的に従姉妹のピアノ教師(民子)についてピアノを習うことになった。  亜希ちゃんをピアノコンクールに出場させて、絶対優勝させるわ。 そして次は世界コンクールに出場ね。  亜希は19歳の時に、初めてのコンクールの一週間前に突然倒れた。 『コンクールは次回狙うから……』と気丈夫に応えていた。  コンクールの前日ベッドの中で亜希が嗚咽を漏らしていたのを琢磨は知っていた。
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