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しかし、そんな生活も、今日が最後だと彼は知る。もうすぐここに、警察が踏み込んでくることが既に決定事項として存在しているからだ。
自分が殺した少女たちの姿を眺め、その残り香を取り込むかのように、大きく深呼吸をする。
後悔はない。むしろ清々しい気持ちでいっぱいだった。
ほんの数日前の彼には、まさか逮捕の瞬間をこのような気分で迎えるとは思ってもみなかっただろう。
抗い、泣き、叫び、怒声を上げ、アパートの床に体を押し付けられて取り押さえられるのだと、そう思っていた。
しかし今は違う。全てをやりきった充実感と昂揚感で、胸が高まるような思いだった。
不意に彼の耳が、喧騒を捉える。外に、警察が集まっているのだろう。
この分だと、ここは完全に包囲されているようだ。武装もしているだろう。恐らく、テレビカメラなども嗅ぎつけてきているに違いない。
彼は、にやりとほくそ笑むと、身体中に針を突き刺して殺害した少女の腐乱死体と、まだ死んで間もない少女の全裸死体を両手に抱える。
――この姿で部屋を飛び出してやろう。そして、日本中に俺の作品を映し出してやるのだ。
今までであれば、こんな児戯のような行動をとろうなどとは考えもしなかった。不運にも、彼は変わってしまっていたのだ。
この日、多くの犠牲者を出した事件は、彼の逮捕を持って一応の終末を迎える。
多くの人間に、消えぬトラウマと悲しみを残したまま。
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