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まさに、
《The Sun Set》
でした。
あれが巷'(ちまた)で噂だった、誰もが生涯一度だけが見る事が出来る
《The Sun Set》
だったんだと思います。
あれ以来、あんなに綺麗な夕日は見た事がありません。
辺り(あたり)はいつの間にか真っ暗になっていました。
俺は『豆太郎』を見つめ、泣いていました。
自分がやってしまった事への後悔の念に苛ま(さいなま)れて。
本当だったら、今頃『豆太郎』は、津軽在住田中さん家の鶏『かっ君』や、宮崎在住野辺さん家の鶏『鮫島一号』などをお腹いっぱい食べれていたはずなんです。
それを、俺のエゴのために、こんな寂れた(さびれた)漁師町まで連れてきてしまった事に悩んでいたんです。
「ゴメンな、『豆太郎』。こんな事になってしまって...」
ただの偶然だったのかもしれません。
だけど、その瞬間、
「グァーッ、ゴォーッ.......」
って咽(のど)を鳴らしながら、顔を俺の右手に擦りつけてきたんだす。
涙が止まりませんでした。
『豆太郎』を抱え上げ、膝(ひざ)の上に乗せて、頭を撫で続けました。
俺の涙が枯れるまで。
涙が枯れた頃、人が歩いてくる音が聞こえてきました。
音のする方に目を向けてみたんです。
そうしたら、月明かりの陰の隙間から、1人の男性が現れたんです。
それはお昼にメザシをくれなかった恐持て(こわもて)の漁師さんでした。
「坊主、腹減ったろう。これ食いな。」
呆気(あっけ)に取られている俺をしり目に、右手に持っていたスーパーの袋から、アルミホイルに包まれた物と、水筒、透明な袋に入った鶏肉を出して渡してくれました。
「ごめんな、昼はあんな態度取っちまって。
坊主がこんな寂れた(さびれた)町で、ワニなんていった小洒落た(こじゃれた)ペット連れてっからよ、年甲斐もなく動揺しちまったんだよ。
すまねぇーな。
これは何っていうか、あー、あのなー、お昼のお詫びだ。
まぁ、遠慮せずに食べてくれよ。」
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