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『豆太郎』は今でも話題にでるように、当時はスーパースターでしたよ。
そんな『豆太郎』に出会った瞬間、頭が真っ白になりました。
その日もお客さんの目の前でショーをやっていました。俺の所から『豆太郎』がいる所までの距離は50メートル。
『豆太郎』のところに至るまでの間、俺はずっと、「豆・・豆・・・・太郎・・豆・・豆・・・・太郎・・豆太郎・・豆太郎...」と繰り返し呟いていました。
『豆太郎』までの距離は5メートル。
そこからは今でも曖昧なんです。
気が付いたら、『豆太郎』を右手で抱え、ひたすら走っていました。
当日の『豆太郎』はまだまだ子供で、12歳の俺でも抱えられる重さだったんです。
必死で走りました。
ひたすら走りました。
後ろを振り返る事なく、ひたすら走りました。
・・・・・・・。
無事、逃げ切る事が出来ました。
逃げ切ったものの、問題は山積みです。
12歳の少年と一匹のワニ。
当日の日本は、俺達が生活していくには苛酷(かこく)な環境でした。
ふらっと訪れた漁師町。
たまたま港にいた恐持て(こわもて)の漁師さんに話かけてみました。
「あのー、すみません。
この子がお腹空いてるから、そのメザシを一尾いただけませんか?」
12歳だった俺が、勇気を振り絞ってかけた一言だったんです。
「なめんじゃねぇーぞ。
俺はワニに食わせるメザシなんて一尾も持ち合わせてねぇーんだよ!!」
・・・・・あっさりと断られました。
その恐持ての漁師さんは、俺に断る傍ら(かたわら)、右手で野良猫の『ミーちゃん』(恐持ての漁師さんが猫撫で声で呼んでたから)にメザシを与えてたんです。
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