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その男はたしか・・・・・、
都心からの終電が行ってしまい、駅のシャツタ―が閉まった後に―、
駅、構内のタクシー乗り場から乗せた客だった。
と、思ったなぁ…。
年の頃は、三十でこぼこ。
全体的に黒ぽい服装だったけど―、
まっ、
どこにでも居そうな、ごく普通の男だよ―、ね。
「えっ!逃げられたの?」
「はい・・・・・・」
ここは、車で新宿から西へ数キロ走った国道沿いの交番である。
「被害額は・・・・」
「一万三千・・・・」
「――で、運転手さん。
その男を、何処から乗っけたの?」
「はい、千葉の・・・・」
「で、その男が―、だ。
家からお金を持って来るから…、
この場所で待っててくれっと―、
そう、言った。訳だね・・・」
「はい・・・・」
オイラは、ショック…!
だった…。
金を踏み倒されたその事より…、
道中、言葉巧みに人を信用させる様な事を並べて…、
最初からそのつもりで居る人間が…、
この世には実際に存在するのだ。
それ、そのものが…、
オイラの心を随分と傷付けていた…。
「運転手さん、故郷は…」
「沖縄です…」
帰り道――。
「そう…、沖縄かぁ。
運転手さん――。
都会はね―、悪い人ばかりじゃないけど…、
そうではない人間も居る。
解るね・・・」
と、年配の制服警察官の言った言葉が―、
悲しく身に染みた…、
夜だった。
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