エピソード3⃣     ―洗礼―

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その男はたしか・・・・・、 都心からの終電が行ってしまい、駅のシャツタ―が閉まった後に―、 駅、構内のタクシー乗り場から乗せた客だった。 と、思ったなぁ…。 年の頃は、三十でこぼこ。 全体的に黒ぽい服装だったけど―、 まっ、 どこにでも居そうな、ごく普通の男だよ―、ね。 「えっ!逃げられたの?」 「はい・・・・・・」 ここは、車で新宿から西へ数キロ走った国道沿いの交番である。 「被害額は・・・・」 「一万三千・・・・」 「――で、運転手さん。 その男を、何処から乗っけたの?」 「はい、千葉の・・・・」 「で、その男が―、だ。 家からお金を持って来るから…、 この場所で待っててくれっと―、 そう、言った。訳だね・・・」 「はい・・・・」 オイラは、ショック…! だった…。 金を踏み倒されたその事より…、 道中、言葉巧みに人を信用させる様な事を並べて…、 最初からそのつもりで居る人間が…、 この世には実際に存在するのだ。 それ、そのものが…、 オイラの心を随分と傷付けていた…。 「運転手さん、故郷は…」 「沖縄です…」   帰り道――。 「そう…、沖縄かぁ。 運転手さん――。 都会はね―、悪い人ばかりじゃないけど…、 そうではない人間も居る。 解るね・・・」 と、年配の制服警察官の言った言葉が―、 悲しく身に染みた…、 夜だった。  
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