1⃣―宝くじ―

4/4

562人が本棚に入れています
本棚に追加
/157ページ
「運転手さん…」 「はい…」 と、オイラはルームミラーに目をやる。 「実は――、今、私には好きな人がいてね…」 「ええ…」 「去年の秋に、その彼と結婚するはずだったんですけど―、 その直前に、彼の、お父様が亡くなって…、 500万の借金が、彼に遺ったんです…」 「・・・・・・・・・」 「私は、彼に―、 一緒に返していこう! って、言って頼んだんですけど・・・・・・、 彼は、私に苦労かけたくないからって・・・・・、 だから彼…、昼も、夜も働いて・・・・・・、」 その時…、 窓の外を眺める彼女の声が、少し、涙声となってオイラの耳に…、聞こえた。 「・・・・・・・・・・・・・」 「それで…、私――、 そんな事を色々と考えながら歩いていたら……、 さっき、駅前で―、 宝くじ売り場の赤い幟が目に飛び込んで来て―、 私――、宝くじを、一枚だけ、買ったんです。   1億なんて当たらなくていいんです・・・・・・。 彼の借金の分の500万があれば、 私・・・・・・・・、 彼と一、早く一緒になれるのかな… とか――、 思っちゃって・・・・・・・」 その時オイラは―、 彼女を思いやる、彼の気持ちと…、 その彼を慕う、健気な女心に…、 言葉に詰まり―― 目頭が熱くなった。 やがて、タクシーは目的地に着き―、 オイラは、オート・ドアを開けると彼女を見て――、 「お客さん―、その宝くじ。 当たるといいですね…」 と、言った。   彼女は―、 「ありがとうございます。運転手さんも―、 キャンピングカーを・・・」 と、ニコッと微笑んだ。 「あはっははははははは! そうですね~! ありがとうございます!」 彼女が降りたタクシーの中には―、 真心という、ほんわかとした暖か~い空気が残された。 帰り道――、 オイラは、思った。 たとえ、宝くじなんか当たらなくたって…、 あの二人は、きっと―、 幸せになれる! と・・・・・・。 タクシーの中は――、 お客が本音をこぼして行く不思議な空間・・・・・・。 次は、どんなお客がオイラのタクシーに―――。  
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

562人が本棚に入れています
本棚に追加