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「もう……お父様(パパ)ったら遅いなぁ……」
ベッドの上で、少女は不満そうに呟いた。
今日は私の八つの誕生日なのに。お父様(パパ)、早く帰るって言ったじゃない。
なかなか帰って来ない父親への不満は募るばかり。
と、少女は小さく咳をする。胸に痛みが走り、少女の眉が歪められる。咳をする度に痛みが強くなってきている。
もう私は次の春を迎えられないかもしれない。
少女は自分の寿命を薄々予感していた。そもそも、ここまで生きて来られた事が奇跡に近いのだ。
少女は毛布に顔をうずめた。まだ赤ん坊だった頃から使って来た毛布はあちこちがほつれてもろくなっている。それでも毛布としての役目は果たしていて、充分暖かい。
父親から初めてこの毛布を与えられ、とても温もりを感じたのを覚えている。その日の夢は幸せな物だった。それから、この毛布はずっと愛用品だ。
「眠くなって来ちゃった」
窓に目をやると、月明かりが差し込んでいた。月はかなり高い位置にあるようだ。そろそろ日付が変わるのかもしれない。
「はぁ……」
未だ帰って来ない父親に溜め息をつく。
せっかくの誕生日なんだから、二人で祝いたいのに。お父様(パパ)が帰って来た時に私が寝ていたらつまらないわ。
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