《梟と真っ赤な林檎》

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「ぜひ、お願いします。」 嬉しい気持ちになっているわちの声には、自然と明るさが乗っかっていました。 「ただし、一つだけ条件がある。」 ふちは、凛とした声で言いました。 「一体、その条件とは何なのですか?」 わちは素朴な疑問として、ふちに尋ねてみました。 「ふちは真っ赤な林檎を食べたい。」 ふちのその言葉を聞いて、わちは困ってしまいました。 真っ赤な林檎は、今さっきわちが食べてしまったから。 どうしようかと悩んだ挙句、わちはふちに正直に言うことに決めました。 「ごめんなさい、ふち。 真っ赤な林檎は、わちが今さっき食べてしまいました。」 それを聞いたふちは、微笑んでいます。 「それは知っている。」 意地悪なふち。 だけど、わちは我慢します。 あちに会うために。 「ふち、わちに飛び方を教えてください。」 わちは、ふちにお願いをしました。 それを聞いたふちは、相変わらず微笑んでいます。 片足に、真っ赤な林檎を抱えながら。 そして、ふちはそれ以上は何も言わずに、この場から飛び去ってしまいました。 わちに飛び方を教えずに。 結局、わちは飛び方について、ふちから何一つ教えてもらえませんでした。 どうやら、ふちは、あちに恋しているわちのことを羨ましがり、そんなわちに意地悪をしたかっただけのようです。 わちは少し虚しいです。 ふちのことを信じていたし、ふちの言葉に期待していたから。 わちはまた一人になってしまいました。 先程までとは違う気持ちを抱きながら。 月の明かりの下、わちは考えます。 あちに会うために。 思えど、試せど、動かない翼。 あちと一緒なんです。 右手に光を、左手には闇。 だけど、わちは飛べません。
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