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「俺、武の手が好きなんだ。大きくて、あったかくて…優しい」
瞳が細められ口元が緩む。普段の仏頂面からは想像出来ない優しい笑顔。
その表情だけで武の心臓がドキッと高鳴るも、内心自分を叱咤して何とか気持ちを落ち着かせる。
そんな場合じゃないんだ!俺と隼人じゃ……許されない。
「なんで、変わったんだよ。前はたくさん撫でてくれたじゃねぇか。名前も、隼人って…。俺、武に嫌われるようなことしたか?」
言葉を言い切るより先に隼人の表情がみるみる曇り始めた。不意に幼い頃の楽しかった記憶が脳裏によぎり目頭がツンと痛くなる。
嫌われた……武の態度が変わった日から感じていた違和感の正体を敢えて考えないようにしていたのに。
今更自覚して、傷付いた。
「嫌いなんてそんな…俺はいつだって隼人様のことを「嘘つき!!」
否定しようとした武の言葉を遮り隼人が怒鳴る。目尻に涙を浮かべ翡翠色の瞳が揺れている。
「………………」
笑ったり怒ったり泣いたり…
今日の主人は様々な表情を浮かべてる。武はぼんやりとそんなことを考えながら隼人に両手を伸ばした。
背中に両腕を回して抱き寄せる。隼人の小さな身体は武の胸にすっぽりと収まってしまった。
「ずっとこうしたかったんだ。俺、隼人が好きだ……ごめんな?」
突然の出来事に隼人は対応出来ずに武の腕の中で固まってしまった。
状況が理解出来ない。なんで俺は武に抱き締められてんだ?好きってなんだよ?
…………………俺、は?
「………た、けし?」
「主人と使用人じゃ立場が違うし、ましてや男同士なんだ…隼人にこんな感情持つなんて間違ってる。でも、ごめん…我慢出来なかったんだ」
久々に感じる隼人の温もりと感触が心地好い。ふわりと鼻孔を擽る隼人の匂いに脳まで蕩けてしまいそうだ。
きっと、もう感じる事は出来ないから…せめて今だけでも堪能しておこう。
自然と抱き締める腕に力が籠る。
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