君を想えば…(8059)

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『アハハ!すげぇイタリア地図!』 『うるさい!笑うな!』 広げたシーツにくっきり残る黄色い染み。おねしょを笑われて赤く染まった頬を膨らませる幼い少年の頭を、優しく撫でる笑顔の少年。 『わりぃわりぃ。他の奴には内緒にしといてやるから怒んなよ。これは俺が洗っといてやるな』 『……絶対内緒だからな。俺と武の秘密だぞ!』 『あぁ、俺と隼人の秘密な』 隼人と呼ばれる幼い少年の短い小指と、武と呼ばれる少年の長い小指が絡まりゆっくり上下に揺られる。 二人だけの秘密を共有した証。 ―――――――― シャッとオフホワイトのカーテンが勢いよく開き、部屋に太陽の光が差し込む。 「………んんー…ん」 ベッドで心地好い寝息を立てていた少年は、突然の眩しさに眉を寄せて小さく唸りながら身動いだ。 「隼人様、起床のお時間です」 「………まだ、眠い」 カーテンを開いた青年の声に、パチッと少年の目を開く。…が、直ぐに不機嫌そうに眉間に皺を寄せて頭まで毛布を被った。 青年は小さく溜め息をつき、コツコツと足音を立てながらベッドに近付けばそっと毛布を捲り少年の顔を覗き込んだ。 少年の綺麗な翡翠色の瞳と目が合えば、微かに瞳を細めて柔らかな笑みを浮かべる。 「おはようございます、隼人様」 「…………………」 青年の笑顔を、ギッと鋭く睨み付ける少年。渋々起き上がり、右手でガシガシと乱雑に頭を掻きながらベッドから降りて窓に近付く。 窓から見えるのは緑生い茂る庭園に、見上げれば雲一つない真っ青な空が広がっていた。 「今日は天気もいいし暖かい。よろしければ、お出掛けになっては如何ですか?こんな晴天、部屋に籠っていては勿体無いと思いますが」 「…………いい」 青年の言葉に暫し間を置いて返答をする。 そのまま窓から離れ、再びベッドまで戻れば着ているパジャマのボタンを外してするりと脱ぎパジャマをベッドの上に放る。 「では、俺は失礼致します。朝食も直ぐにお持ち致しますので」 着替える少年の背に軽く会釈をしてから静かにドアを開けて部屋を出ていく。 少年はドアの閉まる音を確認してからゆっくり振り向き、じっと閉まったばかりのドアを見つめた。 その瞳には、微かに落胆の色を浮かべて…… 「…………バカ武…」 誰に聞かせるわけでもない一言が少年の口から零れたが、静まる部屋に響く事はなく消えていった。
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