君を想えば…(8059)

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昔の夢を見た。それは自分がまだ4つの頃の幼い日の夢。 彼の名前は獄寺隼人。イタリアでも有数の豪邸に住む御曹司。 武と呼ばれる男は、隼人専属の執事だ。気立ても良く、スラリと伸びた長身に爽やかな笑顔は屋敷に務めるメイド達の間で密かに騒がれていた。 凡そ10年前にこの屋敷に住み込みで雇われ、早くに幼い隼人に懐かれたことで専属の執事として隼人の世話を一任されている。 幼い頃はお互い主従関係である事も気にせず、まるで友達のように接し合っていた。 敬語も使わず名前も呼び捨て…勿論二人でいる時だけだが、屋敷に籠りきりで友人のいない隼人には他の使用人とは違う武の親しさが嬉しかったのだ。 しかし、10年の歳月を得た今では幼かった頃の親しみ等なくなり、あくまで主人と執事の立場で接している。 「俺は、気にしないのに…」 武の自分への変化に隼人は寂しさを感じていた。呼び方、話し方、今の状態に不満ばかりが募る。 何故、武の態度が変わったのか…隼人には分からないままだ。 着替えを終えて部屋の中央に置かれたテーブルにつく。椅子に腰掛けテーブルに肘を置いた。 暫くすると、扉からコンコンと小さくノックする音が聞こえ「失礼致します」という低い声と共に扉が開く。 武が出来立ての朝食を乗せた荷台を押して部屋に入る。 隼人の目の前に並べられる朝食。勿論、一人分。 「武も、一緒に食えよ」 「いえ、俺は結構です」 ちらりと視線をやり一緒に朝食をとるよう誘うがやんわりと断られた。 幼い頃はこの部屋で一緒に食事をするのが当たり前だったのだが… 「…………………」 不満を口にすることが出来ない。それ以上会話を交わすことはなく、隼人は無言で用意された朝食を口に運んだ。 武も無言で、黙々と食事をする隼人の姿を見つめている。その表情には僅かに悲しみの色を浮かべていたが、目も合わせない隼人が気付くことはなかった……  
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