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ディスタリア国を抜けると、広い青い海が眼前に広がり、風に潮の匂いを乗せて吹き付けてきた。
あたしたちは、港のあるグリード国の首都を目指し、海岸沿いに南へと下る。
あたしにとってみれば、初めての海で、寄せては返す波を見ているだけで不思議と飽きることはなかった。
岩場で今晩の野宿のためにご飯となる魚を釣る。
釣りというのも初めてで、ペイに教わりながら釣り糸を海に垂らすけど、ペイのように釣れることはなくて、あたしはぼーっとしていた。
メリー、ミシェル、クリスは薪となる流木を集めたりしてくれている。
「っと。またかかった」
ペイは楽しそうに簡易に作った釣竿を引き上げる。
その糸の先の針には魚がちゃんとついていて、ペイは慣れたように魚を針からはずして、近くにおいていたバケツに魚を投げ入れた。
「なんでペイはそんなに釣れるの?あたし、まだ1匹も釣ってないのにぃっ」
「俺の餌のほうがうまそうに見えるんだろ」
ペイは言いながら、あたしのそばにきてくれて、あたしの握った釣竿に背後から手を添えて、こうすればいいみたいに教えてくれる。
けど、あたしは釣りどころか、近くに感じるペイにドキドキしてしまって、なんかそれどころじゃなくなってしまう。
だって、近いっ。
一緒に旅をする人が増えて、こんなふうに二人きりになることもなくなっていたから、なんかこんなの久しぶりだしっ。
なんて、ドキドキしているのは、きっとあたしだけなんだろう。
相変わらずペイは何を考えているのかわからないし。
思わせぶりな態度…も、最近じゃわかんない。
あたしが溜息をつこうとしたその時、いきなり竿が勢いよく引っ張られた。
ええっ?
あたしはその強い力に驚いて竿から手を離す。
「かかったっ。リジー、おまえ、これ引き上げるのが釣りなんだぞ?手を離してどうするんだ?」
「だって、そんなの無理だよっ」
「確かにこりゃ大物だな」
ペイは楽しそうに竿を左右に倒したり引いたりして、釣りを楽しんでいる。
あたしは何もできずに、そうしてペイが魚を引き上げるのを少しワクワクしながら見ていた。
どんな大物がかかったんだろう?
海の海面に巨大な影がゆらゆらと近づいてくる。
そして、海面からいきなり、ザバァッと大きな水音をたてて何かが飛び出してきた。
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