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「ちょっとっ!!痛いじゃないのよっ!!」
なんて釣られたそれは大きな声で叫んだ。
その顔はあたしっ!?の顔をしていた。
えっ?えっ?なにこれっ?
「……またおまえか。人魚姫」
ペイはその海から吊り上げたあたしの顔をしたそれに向かって言った。
それは自分の両手で針をはずすと、憎々しげに針をその場にたたき付け、ひょいっと岩場に飛び乗る。
上半身はあたしの顔をした人間。下半身は魚の鱗。
人魚…姫?
「久しぶりじゃない、ペイ。またあんたなの?」
人魚姫はペイを睨みつけるように言う。
「おまえ、また俺に釣られるってどうなんだよ、それ」
「だって、こっちのほうに王子様がいるような気がして来てみたら、おいしそうな藻が目の前にふわふわぁって漂っていて、思わずパクって食べたら、口の中にグサッて……」
人魚姫は泣き真似をして語り、そしてあたしに気がついたように、あたしのほうを見る。
「あ。こんにちは。あたし、オリビアっていうの。よろしくね」
人魚姫はにっこりと笑ってあたしに挨拶してくる。
その顔があたしで、あたしは開いた口を塞ぐことも忘れて呆然としていた。
だって顔っ。あたしなんだもんっ。
「…オリビア、その顔、元に戻せよ。なんだっけ?相手を威嚇するために相手の顔に顔を変えるんだっけ?」
「あ…。忘れてた」
オリビアは言うと、その顔の前に軽く手を翳し、あたしの顔から違う女の子の顔へと変えた。
威嚇…。
確かにものすごく威嚇されちゃったよ…。
「びっくりした…。あたしはリジーよ」
あたしはそうオリビアに挨拶してみせた。
「そう。リジーっていうのね。ねぇ、あなた、王族よね?」
「なんでわかるの?」
人魚姫だから…っていうのは理由になんないよ。
あたし、そんなに王族っぽくないと思うんだけどなぁ…。
「匂いがするの。匂いが。リジー、兄か弟いないの?」
「まーた王子様電波かよ?」
ペイは呆れたように言いながら、オリビアにたたき付けられた釣竿の針をいじる。
王子様電波?
「そうよ。あたしが結婚するのは王子様しかいないんだから」
オリビアは当たり前とでも言うように言って、またあたしに向き直る。
えっと…さっきの答えを求められているのかな?これは。
「いない…よ?一人っ子だし」
「なーんだ。つまんないの」
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