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あたしの手をダンがひいて、急斜面の道なき道を引き上げてくれる。
ペイもミシェルも近寄ることはない。
男が4人、女が4人。
ペイはファームを、ミシェルはメリーを、ゲルはレイを、ダンはあたしを助けるみたいになっている。
ゲルは体格よくて、以前もそうだったというくらいに、レイを軽々抱き上げて運ぶ。
あたしはダンとあまり話すこともなく、あたしの声が出なくなってしまった。
ダンは元々、この東の大陸で騎士をしていたらしく、とても丁寧な人で。
あたしが声も出ずに唇だけでありがとうを言うと、笑みを返して頷いてくれる。
「クリスの魔法で補えない部分は私が手伝わせていただきます。私はどうやらクリスに嫌われてはいないようなので」
「別にペイお兄ちゃんたちを嫌ってなんかいないよ?」
クリスは魔法で体を浮かせて崖を登り、ダンのあたしにかける声に気がついたように言葉を返す。
「じゃあ、いきなりどうしたんだい?クリス」
ダンに聞かれて、クリスはあたしを見て、ダンを見上げる。
「今はダメなの。それだけ」
クリスはそんなふうに答えてはぐらかす。
「…なぁ、クリス。思ったこと言ってもいいかい?」
「生意気って言うんでしょ?そんなの村で言われ慣れてるよ。いいんだよ。僕は生意気なんだ」
「クリスは本当にリジーさんを守る小さな騎士だな。甘えた顔を見せないようにしている」
「うん。だって今までリジーお姉ちゃんにいっぱい甘えてきたもん。今度は僕ががんばるんだ」
クリスがそんなふうにダンに話すのを、どことなく恥ずかしくなりながら聞いていた。
守られちゃってる。
小さな騎士様に。
クリスがあたしと同じ年くらいなら、好きになっていたかもしれない。
…うん。クリスのためにも。
あたしはまだ歩かなきゃいけない。
たとえ声が出なくなったとしても。
そのクリスの中の魔王の欠片をどうにかできるまで。
もしかしたら…あの淋しい目をした魔王の胸を貫けば…。
勇者様に会うよりも、早くクリスを助けてあげられるかもしれない。
だけど…でも…。
わからない。
クリスの体はクリスのものなのか、それとも…魔王の欠片の器なだけなのか。
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