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これは別に婿探しの旅でもないのだけど。
…そういうふうに考えてしまうほうが楽かもしれない。
あたしはどこかクリスに気持ちを楽にしてもらって、また歩き出すために立ち上がる。
城が見えた。
あたしが確かに一度いったことのある城。
同じ窪地。
あたしは窪地の上から城を見ている。
あの時と同じ恐怖を感じている。
あの城はこわい。
近寄りたくない…。
でもいかなきゃ。
「…魔王の城よりはまともに見えないことはないですね」
ダンは城を見ながら、そんな言葉を呟く。
「魔王と同じモノは肌に感じるけどね」
ファームは呟きに答えるように口にした。
「真っ黒な空気。魔王の見た目も魔王そのものなのでしょうか?」
レイが誰にとでもなく問いかける。
「…行けばわかるだろ」
ペイは答えるように言うと、縄を太い木の幹に繋いで、縄の端を持って一番に窪地へと飛び降りた。
何を恐れる様子もなく。
みんなが次々と魔法や縄を使って降りていくのを眺めて。
あたしは城を見る。
あたしが…やらなきゃいけない。
あの男が何者であっても。
あたしがその胸を…。
その命を…。
エスナがあたしに魔法をかけてくれて、あたしはエスナを腕に抱いて、その窪地へと降りる。
振り返ると断崖絶壁。
とても普通では登れない壁。
あたしは確かにここにきた。
城の中の様子は何も変わっていなかった。
あたしは一度きたその城をまっすぐにあの男の元へと歩く。
謁見室。壊れた扉。崩れたシャンデリア。
玉座に座る黒い甲冑を身につけた男。
そのままだ。
男は肘置きに肘をつき、あたしを見ている。
あたしは太股につけた、ミシェルから渡された短剣に手を添える。
「魔王っ」
あたしの背後で勇者ご一行様の方々は声をあげ、あたしを守るかのように、あたしの前へと武器を手にして飛び出す。
あの男には意味はないのだけど。
だって敵意も殺意もない。
死にたがっている男だ。
「待っていたぞ、エリザベス」
彼の言葉にあたしは言葉を返したいけど声も出ない。
あたしは彼に歩み寄ろうとして、ペイの腕があたしを止める。
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