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「ねぇっ、ちょっと…あのっ」
あたしはあたしの手をひいて泳いでいく男に声をかけた。
そう。このオリビアの知り合いの男もやっぱり人魚だったりして。
しかもどうやらオリビアを探していたみたいなのね。
どんどん泳いでいってしまう男に連れられて、あたしは見たこともない海の底の世界を見ることになってしまう。
あたしがいた場所があっという間に遠くなっていってしまう。
「待ってってばっ」
あたしはいくら声をかけても振り返ってもくれない男に、今度は少しばかり大きな声で声をかけた。
男は止まり、あたしを不機嫌そうに見る。
やっと止まってくれた…。
「あたし、オリビアじゃないんだけどっ?オリビアに魔法かけられた人間なのっ」
あたしの言葉に男はすぐに信じた様子は見せなかった。
「本当だってばっ。あたしはあなたがオリビアのどういう知り合いかも知らないし、海の中の世界も知らないの。あたしは元に戻りたいの。あなたなら、この魔法とける?」
男は少し悩んだ顔を見せて、あたしの手を離した。
「…本当に…オリビアじゃないんだな?」
「本当にオリビアじゃないってばっ。あたしはリジーっていうの。あなたは?」
「俺はユラ。…本当のことみたいだな。けど、その魔法は俺にはとけない。それにもう空も暗くなってきたし、ここにいても仕方がない。俺たちの住む城まで案内するから、今日はそこで休んでいったほうがいい」
ユラの言葉にあたしは少しショックを受けつつも、確かに空は暗くなって、海の中も暗くなっていることを感じて頷いた。
明日、明るくなったら、あの場所へいけば…、もしかしたら、あれがあたしじゃないってみんな気がついてくれているかも知れないし…。
今日のところはユラの言うとおりにしておくべきかもしれない。
海の中のことはあたしには知らないことばかりだし。
あたしはユラのあとをついていくように泳いで、ユラのいう城へとたどり着く。
そう。海の底にお城が本当にあった。
色とりどりの魚が泳いでいく。
人魚たちがあたしとユラに会釈するのを見ながら、あたしはユラに案内されてオリビアの部屋へと入る。
オリビアの部屋には、オリビアの宝物のようなキラキラとしたものが置かれていたり、寝場所のようなところには、柔らかそうな藻がはえていたり…。
なんだか不思議な光景だった。
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