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「リジー、なんであいつがおまえの名前を知っている?……って、返事できないんだったな」
ペイはあたしに問いかけて自己解決している。
返事はできない。
わかっているなら聞かないで。
あたしは言い返したいけど、言い返せず。
「ほぅ。お前らはあの時の男の仲間か。あの男がいないようだが?」
「あんたの首は確かにとった。あんたがなぜそこにいるのかを先に問わせてもらいたいくらいよ」
「何にしても貴方の存在はよくはない。貴方には消えてもらいます」
ファームとダンは言って、ファームは炎の魔法を男に向かって放つ。
その魔法は確かに男の甲冑に当たり、その一点から燃え広がった。
男が手を軽く振ると、炎は簡単に消えていく。
「俺の肉体を滅ぼしたというのに生ぬるい。光を持つ者がいなければ、お前らの力はその程度か」
男は挑発するように言ってきて。
本気の顔を見せたみんなを見て、口許に笑みをのせる。
また死にたがっている。
精神の存在。
こちらから傷をつけることさえも不可能かもしれないのに。
傷をつけられたがっている。
そんなふうに思って彼を見ていた。
「…っ!その子供を俺に近づけるなっ!」
なんていう彼の大きな声に気がつくと、クリスが一人、彼にふらふらと歩み寄っていた。
あたしはクリスの中の魔王の欠片を感じて、走ってクリスの体を捕まえようとした。
クリスっ!
あたしの声は声にならず。
クリスは彼にふれようと手を伸ばす。
あたしの腕はクリスを抱きしめることなく、空を切った。
確かに、今、ここにあったその存在は、一瞬で消えた。
欠片も残すこともなく。
あたしの視界には魔王の膝が見えて、視線をあげていくと、あの黒い淋しい目はそこにはなかった。
赤い…、憎悪を灯したかのように真っ赤な目をした、いつかクリスの中に見た、あの恐怖を与える魔王がいた。
魔王は立ち上がり、その手をあたしに向ける。
あたしに魔法が放たれるよりも速く。
「リジーっ!」
そんな大きな声と共にあたしは腕に包まれて、その場から引き離された。
あたしのいた場所では大きな爆発が起きて。
飛び散る破片からあたしをその腕が守る。
ペイだ。
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