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ボロボロだった。
8人もいても、レイが傷を癒す間もないほど、男の力は圧倒的だった。
精神だけではなく、肉体を持つはずなのに、男に決定的な傷も与えられない。
それどころか、こっちのほうが傷だらけだ。
それでも魔王といえども無尽の体力でもないらしい。
赤い血液も流す。
男の動きは鈍くもなってくる。
なんて言っても、こっちももう満身創痍。
男が連続して魔法を放つと、もう立ち上がることもできなくなりそう。
あたしは自分の傷を癒して、膝をつくみんなを見ながら、あたしの細身の剣を握り直す。
あたしはいける。
まだ…。
あの男は…あたしがやらなければいけない。
あたしは立ち上がり、男へと剣を構える。
赤い目のあの思念さえ封じることができれば…、短剣で胸を貫くことは可能だ。
あの男は死にたがっていたのだから。
あたしは手に光の魔法を宿す。
「…リジー、やめろ」
荒い呼吸の下からペイがあたしに声をかけてきた。
あたしが何をしようとしているのかわかっているようにも聞こえる。
あたしは返せる声も出ないまま。
あたしを…大切に思うのなら…。
……ううん。
あたしがあなたを大切に思うから…、これ以上、あなたを傷つけさせないっ!
あたしは男のもとへと走る。
間合いに入ると手にした剣を男へ振り下ろす。
男の剣はあたしの剣を受け止め、あたしは剣を手放すと、男の体を掴むようにふれた。
光の魔法を送り込むように。
「や……めろっ!」
男はその魔法に気がついたかのようにあたしを弾き飛ばす。
あたしは足を踏みとどまらせて、手に短剣を握る。
喉の奥、詰まった声、言葉。
声にならない強い想い。
守りたい。
あなたを、ペイを。
みんなを。
あたしはもう一度、男へと駆け寄り、男があたしに魔法を放つよりも速く、その砕けた甲冑の胸元へと短剣を突き立てた。
あたしの手のひらに溢れた光の魔法が、男の体を貫く。
あたしの手は確実に命あるものの肉体を切り裂いた感触。
震えた。
俯いて、男のその体に額を当てる。
短剣を握る手も震えた。
男の手があたしの頬に優しくふれ、顔を上げると、そこに見えたのは、あの死にたがっていた男の顔。
黒い、淋しい瞳。
男はその目を閉じて後ろへと倒れていった。
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