女神と魔王

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あたしは息を切らしながら、その場に崩れるように座り込む。 あたしの手には男の胸を突き刺した短剣。 あたしは短剣を両手で握り直すと、目を閉じて自分の胸へと向けた。 あたしもいくから…。 淋しくないよ。 「リジーっ!」 大きなあたしを呼ぶ声が聞こえた。 あたしはあたしの胸に短剣を深く突き刺した。 胸に広がる温かい血液。 けれど…痛みはなくて。 あたしの胸には温かい体温。 目を開けて、そこを見ると、エスナがいた。 小さな体に短剣が突き刺さっている。 あたしを…かばった…? 「……エスナ…。エスナっ!」 あたしの唇から声は出た。 あたしは両手でエスナの体を抱く。 その傷を癒そうと魔法を当てようとした。 『おやめください。エリザベス』 そんな女性の声が耳に聞こえて。 顔を上げると、そこにはいつからか綺麗な女性が立っていた。 見たこともない女性。 流れる長い髪。 柔らかくあたしに微笑みかける瞳。 知らない女性。 けれど、それは…レイが持つ銅像そのもののお姿。 「エリザベェータ様…」 あたしの唇からはその名前がこぼれた。 『ありがとうございます。エリザベス。私も…この人も、長い年月を過ごしすぎて、あなたの力なくては天へ昇ることもできないほどの魔力を得てしまっていました』 エリザベェータ様はそこに倒れた男にふれて。 男はエリザベェータ様の手にひかれるように、その精神だけの体を起こした。 「……あたしは…なんなの?ジャンとエリザベェータの娘って…」 あたしが問いかけると、エリザベェータ様は柔らかく微笑む。 『あなたは私とこのジャンの娘です。長い年月で神格化をされてしまいましたが、私は神でもなんでもありません。遠い昔、シシルの王家に生まれました。私はマーベラスの王家の者であった彼と出会い、恋をし、あなたを身籠りました。 けれど、当時、シシルとマーベラスは戦争を行っており、とても許されるものでもなく、知られれば、生まれ落ちれば、そのまま殺されてしまう。胎児であったあなたを私の力で今の時代の王妃のもとへ…。あなたの母と名乗れるかも…知れませんが。私はあなたを私の娘だと思っております』 理解はとてもできそうにない。 そんなの…知るはずもない。 遠い遠い昔の話。
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