女神と魔王

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『お前がエリザベェータの力で送られたあと。エリザベェータは俺との関係を罪に問われて公開処刑をされた。女神と崇められつつも、その魔力を恐れられて、身内に国民に殺された。俺はすべての人間の滅びを望んだ。魔王と呼ばれ、死神を従え、死ぬこともなく、人間を根絶やしにしてしまうこともできぬまま。お前という娘がいることも知らぬまま。 お前にエリザベェータの血が流れていることはわかったが、俺の娘だったとはな。通りで太刀筋がいいわけだ』 男はエリザベェータ様に変わるようにあたしに言った。 『私は彼を止めることもできず、あなたを探しておりました。セイリールという動物の姿を手に入れて、あなたを見つけて…。あなたは私にエスナと名付けてくれた。私の第二の名前を』 エスナ…。 「あたしはお父様を、お母様を…殺した…?」 『気に病むことはない。なんの因果か、その短剣は俺がエリザベェータに贈ったもの。お前がそれを持ち、俺の目の前に現れたのは、俺の楔を切るため。捨てたはずのものを持ってくるとも思わなかったが…、それもまた運命。 俺のしたことすべてへの償いには事足りぬだろうが、俺の力を…』 ジャンがそこに倒れる器に手をかざすと、それはクリスの体となった。 『では私はエリザベスの大切な人にかけられた魔法でも解きましょうか。クリスは小さいながらも聡明ですね。故にあの凶暴な憎悪ばかりのジャンをしっかりと封じていてくれたのでしょう』 エリザベェータ様はみんなの傷を癒してくれた。 大切な人にかけられた魔法…。 メリーとファームを見ると、びくっとしたように体を寄せあい、あたしは溜め息をつく。 クリスの言ったとおりだったみたいだ。 本当に聡明。 そんなクリスを生き返らせてくれたジャンにお礼を言うべきかどうかもわからない。 もともとはすべてジャンのしたことでもある。 お父様とお母様…。 ここにいる魔王と女神様をそう思うことは、すぐにはとてもできそうにないけれど…。 『そんなすぐに魔法にかかってしまうような柔な男どもより、俺の肉体を滅ぼした勇者にすればいい。盗賊も王子もなかなかいい腕はあるがな。勇者はすべてにおいて俺に似ている』 なんてジャンが言うから。 「だから婿探しの旅じゃないんだってばっ!」 あたしは思わずジャンに声をあげて、ジャンはおもしろそうに声をたてて笑った。
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