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「勇者様と呼ばないほうがよさげ?」
「…そうですね。魔王の首をとってすぐに塔へ登られたようなので、世間でそう呼ばれていることも知ってはおられなさそうです」
すごいことをしたという自覚はない、と。
ここにいるご一行様を見ても、そうなんだろうなとは思うけど。
あたしはみんなの背中を眺めて。
ふと思い出して。
「…メリーはミシェルが好きなの?」
あたしの質問は唐突だったようで、メリーは驚いた顔を見せて。
「そ、それはっ、あのっ…」
「メリーの気持ち、ちゃんと聞いてみたかった」
「……わたしの気持ちはいいのです。ミシェル様はずっとリジー様を望んでおられます。ペイ様かミシェル様か。選ばれるのはリジー様です」
「どっちも選ばずに勇者様を選んだり、ユラを選んだりしてね?」
「わたしとしては…、ミシェル様に幸せになってもらいたいとも思いますが」
メリーの視線は前を向き、その視線をたどるとミシェルの背中で。
好きなんだろうなと思った。
ミシェルに魔法をかけたときからそうだったのか、途中でそうなったのかはわからないけれど。
たとえあたしがミシェルを選ばなくても、メリーはミシェルと一緒になる気はないような気がする。
魔法をかけて、魔法に落ちたから。
塔の姿がはっきりと見える。
その頂上は雲の中へと消えて見えない。
どれほど高い塔なのか。
頂上へ一人で登れと言われても、あたしも嫌だと言いそう。
塔の前、そこに一人の男が立っていた。
みんなは走り出して、男のところへと駆け寄る。
あれが勇者様、メリーのお兄様なのだろう。
「メリーは駆け寄らないの?」
聞いてみると、メリーは照れたような笑顔を見せる。
「わたしは…」
なんてメリーは遠慮するようなことを言おうとして。
「メリーっ。メルサっ。メルサディスっ」
なんていう叫ぶような声がメリーの言葉を止めて。
あたしの目の前、メリーに抱きついた人。
ぎゅうっと抱きしめて、メリーは慌てたようで、息苦しそうで。
「お兄様っ、ちょっとっ、お待ちくださいませっ」
「会いたかったんだよ、メリーっ。もう何年、おまえの顔を見ていなかったと思ってる?風のスクリーン出して、おまえに会おうとすれば、おまえのほうが風の魔力強いし消されるわ、手紙飛ばしても返事書いてくれないわっ」
勇者様らしき人はひたすらメリーをかわいがる。
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