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「それがイヴァンの勇者様と呼ばれたくない理由?」
「……リジー、あんまり聡明にならないほうが女の子はかわいいよ?」
イヴァンはどこかはぐらかすかのように笑って言って、あたしはそんなイヴァンを見て、笑って頷いた。
なにも悩んだこともない顔をイヴァンは見せていたいのかもしれない。
あたしも魔王の…ジャンの胸を貫いた。
今もまだ記憶にある。
一生、忘れることなんてできないと思う。
それでも、その話はもう…したくないかもしれない。
あたしとイヴァンは少しだけ、どこか似ているかもしれない。
「…オリビアっ!そこにいるんだろ?」
なんていきなりイヴァンは声をあげて。
あたしは驚いて海面を見る。
ゆらりと水面が揺れて、オリビアがイルカの背中に乗ったまま、膨れっ面で顔を出した。
もういなくなったと思ってた。
「なによ?」
「マーベラスは海に面した国。海の姫であるおまえの力を借りたい。俺の復興を手伝ってくれないか?」
「…あたしはもう人魚姫じゃない。海神になったユラに人間の足をもらったの。あんたの力にはなれないわよ」
オリビアは見ろと言わんばかりにイルカの上に立ってみせて。
確かにオリビアの下半身には魚のそれはなくなっていた。
でも…そう。オリビアはずっと人間の王子に憧れていたから…。
ユラはオリビアに人間の足をあげたような気がする。
「たとえ人間になったとしても、おまえには海の加護がある」
「だったらあたしを嫁にするくらい言いやがれっ!」
「嫁になりたいのか?前も言ったけど、マーベラスは今はない。俺は王子ではない。血筋しかない」
「それでもあんたに王子様を感じるんだからしょうがないじゃないっ。あたしのこと好きも嫌いもなく、そういう振り方がムカつくんじゃないのよっ!」
「別に振ってないって。じゃ、嫁にする」
イヴァンはなんだかあっさりとそう口にして、あたしもオリビアも驚いてイヴァンを見る。
「あ…、あたしのこと好きになってから言いやがれっ!」
「じゃ、嫁にしない」
「…殴り飛ばしにいくからそこで待ってなさい」
オリビアはキレた。
キレるよねと思う。
わかっていてイヴァンが言っているなら、かなり魔王。
女心を弄ぶ。
でも…、たぶんわかっていない。
そんなイヴァンを考えて、あたしは笑う。
なんだかものすごくオリビアの応援をしてあげたくなった。
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