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最後の手を引いたのは、あたしかもしれない。
国かペイを選べと言われて、どちらもと言ったあたしは、とても我が儘だった。
だけど…。
ねぇ、エリザベェータ様。
あたしの目はまちがっていなかったと思うの。
ペイなら誰よりも素晴らしい王様になってくれると思う。
ペイがそこにいてくれるなら、あたしはどこに逃げもしない。
ペイがいるなら…狭い籠の中と思うこともない。
だけど…、城はペイにとっては狭い籠となってしまうかもしれない。
とても自由な人だから。
「はい。できましたわ、姫様。とてもお綺麗です」
メリーはあたしの髪を結い上げて、にっこりと鏡越しに笑顔をくれる。
「ペイも今頃、正装させられているんだろうなぁ」
「姫様の婚約者様ですもの。正式な式典の際には正装してくださらないと困ります。…正装してくだされば、少しは素敵になられるかしら…」
「ペイはそのままでもかっこいいよ」
あたしはメリーの呟きに言葉を返す。
「……盲目ですわね、姫様。世間ではエリュシオン様やミシェル様に黄色い声があがるというのに」
それを言われると、あたしの趣味がおかしいみたいじゃないか。
…うん。でも少しはわかってる。
あたしにはペイが一番なんだけどな…。
盲目なのかな。
「メリーがエリュシオンやミシェルがいいなら結婚してあげれば?マーベラスの姫様」
「わたしの話はいいのです。ペイ様は姫様の心をあっさりと盗まれたようですね。さすが元盗賊です」
「なんかトゲのある言い方」
「だってわたし、それ以外の盗賊らしい盗賊のペイ様を見たことがございません。成りは賊というほど野蛮でもいらっしゃらないし、盗みを働いてもいらっしゃらないし」
「過去を見れば黒そうだけどね」
「姫様のお心がペイ様が盗んだ中で一番大きなもののように思います。
さて、参りましょうか。姫様」
メリーはあたしに手を差し出してくれて、あたしはメリーの手をとって立ち上がる。
あたしもペイの心を掴めたのなら。
自由に飛び回る翼を折ってしまわないように、ペイらしくいてもらえるように、がんばらなきゃ。
窓の外にはどこまでも澄み渡る青い空。
あたしの旅はまだまだ続く。
あなたの隣をこれから歩いていく。
Fin.2011.10.7
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