1582人が本棚に入れています
本棚に追加
/290ページ
その舞台には二人の役者が揃っていた。お互いの視線は交錯し、緊迫した空気が肌をかすめる。
「一つ聞く。なんで、なんであんたがこんな事……」
悲壮な表情を浮かべ、だが力強く、彼女は問い掛ける。
「……黙っていRO。そこをどけ。お前には関係ない」
表情を変えず、虚ろな瞳を浮かべる彼。乱れた心を必死に押さえこもうと、抑揚をかけずにつぶやく。
「関係ないってなんや! あたしがどんな思いで今まで過ごしてきたか……。何で考えてくれなかったんや。何であたしを置いていったんや?」
彼女は声を張り上げる。彼の心に届くように。
「うるせぇんだYO。お前の事なんか知るか。そこをどけ、殺すぞ」
ぞんざいに放たれた台詞を聞き、彼女は顔を上げる。その目からは、澄んだ雫が垂れていた。自分でも気付かないくらい、それは自然すぎる様だった。
「何言ってんねん? 何でそんな事言うねん。殺すって。だったら何であの時あたしを助けたんや。何で希望なんて抱かせたんや。あたしはあんたにとっての何だったんや」
「なんでもねぇよ。お前を助けたのはただの気まぐれDA。むかついたんだ。あん時のおまえむかついた、それだけだ。そうだ、あの時死に損なったんだからな、今ここで殺しといてや――」
バキィッ!!
台詞が紡ぎ終わる前に、彼女は手を出していた。渾身の一撃が彼の頬をえぐり、遥か後方に吹き飛ばす。
渇いた地面を転がり、彼は全身を打ち付けた。
土煙が大地から生え、天へと昇っていく。
「上等ぉ。やれるもんならやってみろ。殺せるもんなら殺してみろ。……あんたは変わった。昔のあんたやない。目ぇ覚まさせたる。本当のあんたを思い出せ。あたしはあきらめない、退きもしない。正面からあんたを相手したる。あたし以外視界に入れんようにしたる。さぁかかってこい。本気で殺す気で破壊する気でかかってこい。すべて受け止めすべて薙ぎ払いすべてへし折ったる。あんたの根性を叩き直したる」
彼女はその思いのたけを、今まで溜め込んでいた全部を吐き出すように、叫び散らした。
.
最初のコメントを投稿しよう!