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「そや。それでええ。やるんだったらとことんやったる」
そううそぶくも、彼女の声は震えていた。彼女の視界は歪んでいた。
彼は激痛に喘ぎながら、血に支配を許しながら、駆け出した。
「そうや、かかってこい。全身全霊で受け止めたる。全部! 今まで生きてきた全部を、あんたにぶつけたる!」
彼女も飛び出した。悪魔の羽根をはばたかせ、瞳に覚悟を宿し。
二人はぶつかり合った。
彼女はただ泣いていた。
彼はただあがいていた。
そんな二人は激突する。
殺し合う。
確かめ合う。
認め合う。
彼と彼女は愛し合っていた。
彼と彼女は依存していた。
彼と彼女はいつでも一緒に在った。
だからこその反発。
だからこそのいがみ合い。
これは彼と彼女が起こした、最初で最後の激突だった。
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