序曲

4/17
前へ
/422ページ
次へ
「まったく、趣味の悪い事を」  惨事の起きた場に残されたベネットは、横目で肉片を見やる。それから、彼女は大きく溜め息を吐き、半ば叩き付ける様に壁へ寄りかかった。彼女は、目を細め軽く口元を押さえると、涙を浮かべる程に激しく咳き込んでしまう。 「大丈夫ですか?」  すると、その音に気付いたのか、通りかかった従業員が、心配そうに問い掛けた。 「ああ、私は何とかな。だが」  そして、ベネットが従業員に返答し始めた時―― 「うわっ! こりゃひでえな……これを見たキーナが気を失っても、全然おかしく無い」 ――先程、女性が倒れていた辺りから、低い男の声が響き渡る。この為、ベネットは話すことを止め、声がした方へ向き直った。 「支配人、これはどう処理したら」 「とっとと片付けろ! うちは客商売なんだ。客が不愉快になるものを、放置する訳にはいかないだろうが」  声の聞こえた場所で、恰幅の良い男が細身の青年へ指示を出していた。一方、青年は深々と頭を下げると、慌てた様子で建物の奥へ向かっていく。
/422ページ

最初のコメントを投稿しよう!

318人が本棚に入れています
本棚に追加