闇を喰らう者―翠―

序曲

　支配人は、不快な気分を払拭しようと、首を勢い良く横に振る。この時、彼の視界に見知らぬ女性が現れ、男性は半ば強引に笑顔を作った。

「お騒がせして申し訳御座いません。直ぐに片付けますので、お客様は部屋に戻ってお待ち下さい。勿論、今日の宿泊代は頂きませんから」

　彼はベネットの方に向き直ると、頭を深く下げながら話し出す。それから、男性はベネットの横に居る従業員へ目配せをすると、無言で彼女を部屋まで案内する様伝えた。この時、従業員は上手く事情を飲み込め無かった為か、不安そうな表情を浮かべ支配人に歩み寄ろうとする。

「お客様をご案内して、それから冷たいお茶をお持ちしなさい」

　一方、支配人はそれを遮る様に言い放ち、この場から早く立ち去る様、表情で訴える。この為、従業員は彼に頭を下げ、直ぐさまベネットに部屋番号を尋ねた。そして、彼は軽く頭を下げると、彼女を先導する様に歩き始める。