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「綺麗ナー。」と、母は僕を見てくれていた。
ひらひら ひらひら と風に揺れる千枚の羽に見惚れながら。
そして相も変わらず唄を歌う。でも返事をしてくれないね、母様。
何かが起こる前触れなのか、突然風が強くなり震えだす雪の波…
その時、禁忌の祈り・願いの代償として=ズルリと頭から母の魂が伸びていった。
母はこうなることを知っていたのか優しく笑っていた。
『月へと伸びていく母の魂を追いかけて泣き叫ぶ僕のうしろで、はねは静かに‥ただ静かに‥ゆれていた』
ああ‥風車はからんからんと音を立てながら風に流れていく…
とどまることなく流れていく…。
母の微笑みだけを残して。
(行かないで!母様!!)
彼は赤い空の雲の隙間に消えていく母を懸命に呼ぶ。
母が歌っていたあの唄を彼も歌った。そうすれば母の下へ行けると信じ、咽がかれるほど必死に。
幼い歌声をのせた夜露は、降り注ぐ月光のおびに溶けて光り輝く星になる。
この星を辿って行けば母様に会えるはず。
つよく ねえ‥そう、高く背伸びしたよ、お月さま
だから僕を引っ張っていって…。
そして彼は空へと落ちていった…
黄泉の国ではあの子犬が相変わらず待っていた。
「あっ!あっ!また帰ってきたー!!」
『アラマア、お帰りなさい。』
子犬の番犬が再び彼に問う。
ねえ、きみきみ。
今度こそ、はねははえました?
(終)
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