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その視線の先には、病院があった。デイヴィットの持つデータによると、そこはまだ開院してはいない。だから、そこが占拠されることによって人質の人数が増える訳ではない。
だが、そこが占拠されてはならない決定的な理由があった。
「開院日は今月半ば。設備は既に整い、あとはその日を待つばかり」
そんなデイヴィットの頭上を、スミスの声が流れていく。その言葉に答えることなく、デイヴィットは周辺地域の警備体制を確認し、導き出された結果に鋭く舌打ちした。
「所持する火器はライフルのみ、だって……? これじゃあ……」
襲って下さいと言わんばかりではないか。
その言葉を飲み込み、爪を噛むデイヴィットを見つめ、スミスは抑揚の無い声で更に続けた。
「エックス線や癌細胞への照射治療のため、かなりの放射線発生設備がある。無論、専門の知識を持ったそれなりの人間が正し使い方をすれば、問題はない。しかし、誤った使い方をすれば……」
「放射性物質をばら撒けば、人質や土壌被爆の危険性がありますね。観光や商品作物で成り立っているフォボスにしてみれば……」
「風評被害で、経済は壊滅的な打撃を受けるだろうな。その時、Mカンパニーがどう動くか、説明するまでもない」
まるで他人事、とばかりに含み笑いを浮かべて言い放つスミスに、デイヴィットは無言でうなずくしかなかった。
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