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「あの御仁は、君らの唯一と言って良い理解者であり、友人であり、親でもある。君らが除籍になるたびに、あの御仁は一人、涙を流している」
「……失礼ですが、何故そんなことをご存知で、自分におっしゃるんですか?」
一瞬の沈黙。
ややあって、スミスは足を組み直しながら口を開いた。
「先ほど君が、『自分の痕跡は残らない』と言ったからさ。少なくとも私は、愛すべきあの御仁に悲しんで欲しくない」
「覇研究員から、共通のお知り合いとうかがいましたが……少佐殿は何故、首席技術士官殿と交流があるんですか?」
「まあ、腐れ縁と言って良いだろうな。と……」
スミスの視線はいつの間にか、壁にかかっている時計に移動していた。
口元から笑みは、消えている。
「少ししゃべりすぎたようだな。そろそろ出発だ」
言いながらスミスは立ち上がる。
が、すぐにその手は、ふらつく身体を支えるため、ソファの背もたれにかけられていた。
骨折に伴う内出血がかなり激しいのだろうか。痛みは薬で抑えることができるが、こればかりはどうすることもできない。
「あの……出撃に関しては、もう口出しはしません。ですが、出撃前に一度、正式に治療を受ける訳にはいきませんか?」
「言っただろう? 少ししゃべりすぎたようだ、と。残念ながら、その時間は残されていない」
あまりの頑固さに、デイヴィットは深々とため息をついた。
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