VI.疑問

17/18
48人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
「あの御仁は、君らの唯一と言って良い理解者であり、友人であり、親でもある。君らが除籍になるたびに、あの御仁は一人、涙を流している」 「……失礼ですが、何故そんなことをご存知で、自分におっしゃるんですか?」  一瞬の沈黙。  ややあって、スミスは足を組み直しながら口を開いた。 「先ほど君が、『自分の痕跡は残らない』と言ったからさ。少なくとも私は、愛すべきあの御仁に悲しんで欲しくない」 「覇研究員から、共通のお知り合いとうかがいましたが……少佐殿は何故、首席技術士官殿と交流があるんですか?」 「まあ、腐れ縁と言って良いだろうな。と……」  スミスの視線はいつの間にか、壁にかかっている時計に移動していた。  口元から笑みは、消えている。 「少ししゃべりすぎたようだな。そろそろ出発だ」  言いながらスミスは立ち上がる。  が、すぐにその手は、ふらつく身体を支えるため、ソファの背もたれにかけられていた。  骨折に伴う内出血がかなり激しいのだろうか。痛みは薬で抑えることができるが、こればかりはどうすることもできない。 「あの……出撃に関しては、もう口出しはしません。ですが、出撃前に一度、正式に治療を受ける訳にはいきませんか?」 「言っただろう? 少ししゃべりすぎたようだ、と。残念ながら、その時間は残されていない」  あまりの頑固さに、デイヴィットは深々とため息をついた。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!