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動けない私を見て、恭平がモニターに近づいた。
「……ナミ…。俺の客だ」
呆然と佇む恭平は何も出来ず、ただ画面に写され、何か叫んでいる女を見ていた。
「…なんで…」
私もモニターに近づいたが、髪を振り乱し、発狂する女の狂気に戦き、思わず後退りする。
鳴り続けるチャイムと携帯。
「……クソッ!!」
苛立ちを隠せない恭平が、携帯を床に投げつけ、バリンと大きな音がすると共に、着信音が止まった。
―――ガシャーーーン。
リンクするように、ビール瓶が割れる音がフラッシュバックし、目の前があの頃に戻ったように歪む。
父の断末魔の叫びと、血走り、憎しみを抱いた目。
殴られる母、怯える姉と寄り添い過ごして来た幼少期の記憶が、まざまざと蘇える。
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