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一歩、一歩、近づく私を、泣きそうな笑顔で見つめる女。
「実幸……!!
来てくれてありがとう…」
姉は目に涙を浮かべて、私を助手席に乗るよう促す。
車の中は、夜の女らしからぬ爽やかな香りがして、あまり乗らないのか、新車のようにキレイだった。
「……体調は、どう?」
聞きづらそうに言葉を選ぶ姉。
「…まぁ、なんとか…ね」
姉と会う事を望んだ私だが、あのラウンジ『A』で絶縁して以来の再会に、気まずさは当然のようについて来る。
「一度、お見舞いに行ったんだけど、中には入れてもらえなくて…。
でも、本当に無事退院できて良かった」
安堵した表情をして、ハンドルを切る姉の姿。
この人がした裏切りを、許した訳ではない。
だけどこの人が私をいつも守ってくれた事も、忘れた訳ではない。
あの日、『A』を出た後の涙は、姉を許したかったから苦しかったんだ。
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