1話 大暑の暮れに

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「変わんないなぁこの島も…」 それは二年前、この島を出た時の景色となんら変わってはいなかった。 でも、だからこそ帰ってきた事に強い実感がある。 一人暮らしはなかなか大変だったから、ここに帰ってくる時間もなかった。 「お兄ちゃん!」 遠くで僕に向けて手を振る制服の少女。 少女は僕の方へがむしゃらに駆けてくる。 が、途中で見事に転ぶ。 少女はすぐに立ち上がり、恥ずかしそうな顔を見せ、そしてようやく僕の所までたどり着いた。 「お兄ちゃん!おかえり!」 陰りのない満面の笑みだ。 「未来(みく)、迎えに来てくれたのか?」 「うん!」 「ありがとな。さ、行こう」 「うん!」 僕たちは島の中へと歩いてゆく。 この島は大して大きくない島だ。 西希司島(せいきしじま)。北に山が一つだけある小さな島。 人口は千人程度。それでもちゃんと小、中学校は存在する。
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