6人が本棚に入れています
本棚に追加
声を潜めもせず男女区別なく猫を見るものは皆その容貌に息を飲み囁く。
城内での猫とはそのような珍しき者であり、主と主の寵愛を受ける側室の気に入りだという格好の得物であった。
だがしかし、猫に声を掛ける者は少ない。
それは、主をしらずまだ狂気を知らない新参者か……
或いは、男女問わず色に狂う者か……
椿の打ち掛けを羽織ったまま登城した猫はまず湯屋へと向かう。
「よう。また死損なったようだな……」
言葉と共に猫の頭上に手が乗っかる。
「……離せ、不快だ」
冷たくボソリと呟き返した猫は背後に振り向く。
そこには男が1人。
名を犬と云う猫と共に城へ入るようになった忍ぶ者だ。
その者は唯一猫の過去を知り、今を知り、これから先を知るものだ。
「これから湯浴みをする……邪魔だ」
「ならば早々とそのみっともない身なりをどうにかしろ」
「何故……」
「相馬様のお呼びだ」
「……ああ」
耳聡いなと猫はなんとなしに呟く。
あの方と犬との両方に対してだ。
それよりも何より早くに遭遇した椿に対してもだ。
先行し、報告へ向かった別の忍ぶ者たちが教えたのだろうことはわかっていたというのに。
最初のコメントを投稿しよう!