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「待てコラァ!」
普段は静かな魔法都市リグラードの深い森から、物騒な声が響いている。
声の主は、露出の多い服を着た目付きの悪い少女。
鬱蒼と生い茂る草木を掻き分けながら、黒くて小さいなにかを追いかけて走っているようだった。
「おい、そっち行ったぞ!」
「了解っ…うわぁ!?」
少女の合図で、黒くて小さいなにかの道を塞ぐように木の影から突然出てきたのは、白いハチマキを頭に巻いた青年。
捕まえようと両手を伸ばすが、同時に黒くて小さい何かは飛び上がり、無防備な青年の顔面に直撃。
青年はその勢いで背中から倒れ、黒くて小さい何かは体勢を崩して青年の後方へと転げ落ちた。
「よし、チャンスだ!捕まえろっ!」
「うん!」
返事と共に木の上からもう1人少女が跳び降りてきて、起き上がって逃げ出そうとする黒くて小さな何かを素早く捕まえた。
正体はリスの子供だった。
「やったぁ!捕まえた!」
喜ぶ少女の腕の中で、子リスは抜け出そうと必死にもがいている。
目付きの悪い少女は子リスの鼻をつついた。
「ったく、てこずらせやがって!」
「ようやく捕まりましたね。良かった良かった。」
青年は服に着いた葉や土を払いながら近付いてくる。
子リスの体当たりを食らった鼻の辺りが赤くなっていて、少女はクスリと笑った。
「鼻、大丈夫?」
「ええ、問題ないです。」
「じゃぁ、依頼主さんの所にこの子を届けに行こっか!」
3人はリグラードに向かって歩いて行く。
魔法都市リグラードは前大戦で大きなダメージを受けた場所の1つだ。
約3年ほど経った今でもその爪痕は所々に残っているのだが、魔道士達と森に備わっている神秘的な力のおかげで、戦前の緑豊かな姿にほぼ戻っていた。
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