第1章 別れの雪

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今日に限ってお金を少ししか持っていなかった私は、タクシーを使わずに、街はずれにある病院まで走ることにしました。 今日は幸い、パーカーにジーンズ、靴はスニーカーというラフな服装だったので、走るのには好都合でした。 また、少し痩せ方の私は、どちらかというと走るのは苦にならないほうでした。 もうすぐクリスマスの今日、静岡県地方では30年ぶりの雪が降っていました。 静岡で道路に雪が積もったところを見たことのない私は、走りながら、 (麻衣にも見せてあげたいなぁ) と漠然とそう思いました。 雪のために足元が滑り、幾度となく転びそうになりました。 また、街中で信号が赤になって足止めされると、心の中で、 (はやく、はやく……) と焦って叫んでいる自分がいることに気が付きました。 (タクシーだったら、もっと楽だったのになぁ) 私は今日に限ってお金を少ししか持っていなかったことを後悔しながら、走り疲れてだんだんと走るスピードが遅くなっていくのを感じました。 他の人にぶつからないように注意しながら街中を走ると、クリスマスツリーやクリスマスセールの広告が目につき、クリスマスの音楽が、あちらこちらから耳に入ってきました。 (今年のクリスマス会は、麻衣と一緒にできるかなぁ) いろいろな思いが、頭の中を駆け巡りました。 やっと街中を抜けると、今度は上り坂を駆け上がらなければなりません。 病院は、少し小高い場所にあり、病院からの街の眺めは良いのですが、走り疲れて息が切れている私にとっては、心臓破りの坂でした。 坂の途中で、とうとう苦しくなり、私は歩き始めてしまいました。 (もうすぐだよ。 早くしなきゃ) 気持ちは焦って自分自身にこう言い聞かせましたが、体は思うように動いてくれませんでした。
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