第1章 別れの雪

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「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」 私は、荒々しく息を切りながら、やっと病院にたどり着きました。 病院の壁に掛けられている時計の針は、13時30分をまわっていました。 (病院の中では、走っちゃダメ) 私は、逸る気持ちを抑えて足早に病室に向かいました。 病室に入ろうとしたとき、病室の外の廊下で窓の外を眺めている少し怪しげな感じの風変わりな女性を見かけました。 黒いサングラスをかけ、白いマスクをしていました。 服装は、ネイビーのショートコートにジーンズ、靴は泥と雪で汚れた白のスニーカーでした。 コートの襟を立てて、顔を隠すようにしていたので顔がよく見えませんでしたが、歳は20台後半から30代前半くらいの女性といった雰囲気でした。 (誰だろう?) こんな疑問が、フッと頭をよぎりましたが、今はそれどころではなかったと思い直し、病室のドアを急いで開けました。 病室に入ると、母がベッドで泣き崩れていました。 お医者様と看護婦さんは、すでに病室を出たようでした。 ベッドの上では、麻衣が静かに目を閉じていました。 酸素マスクや点滴などが片付けられていたため、状況は、すぐに理解できました。 麻衣は、息をひきとったようでした。 母は、私を見るなり、 「彩、麻衣が……麻衣が……」 と言って、私の胸に抱きついて泣き崩れました。 「おかあさん」 私は、母の体をしっかり支えながら、麻衣の顔を呆然と見つめました。 麻衣は、いつものように優しい顔で、眠っているように見えました。 私は今まで、人が死ぬ場面を経験したことがありません。 こんな時、どうしたらいいのかわからず、ただ泣き崩れる母を支えながら、その場に立ち尽くしてしまいました。 麻衣は、今にも目を開いて、 『おねえちゃん』 と言ってくれそうな気がしました。 でも、麻衣が目を開くことは、二度とありませんでした。 麻衣は17年の短い生涯を閉じたのです。 そのうち、私の目も涙でいっぱいになり、麻衣の顔がはっきりと見えなくなっていくのを感じました。
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