第1章 別れの雪

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どのくらい時間が経ったのかわかりません。 私は母を椅子に座らせ、病室の外に出ました。 病室の外には、さっきの黒いサングラスの女性がいることに気が付きましたが、私にとってはもうそんなこと、どうでもいいことでした。 私は、ふらふらと階段を上り、病院の屋上に向かいました。 麻衣は1年前の夏、私をかばって交通事故に遭い、入院生活を余儀なくされていました。 このため、麻衣が死んだのは自分のせいだと思いつめていた私は、このまま自分も死んでしまいたいと思いました。 病院の屋上で、私は雪が降る街の景色をボーッと眺めていました。 頭の中が真っ白になり、私はいつのまにかベランダの柵の手すりに手を掛け、乗り越えようとしました。 その時でした。 「あの~」 私は、ビクッとしました。 後ろを振り向くと、さっきの黒いサングラスの女性が立っていました。 私は、今自分がしようとしていたことに気が付き、あたふたと慌てながら返事をしました。 「は、はい」 黒いサングラスの女性は、つかつかと私のほうに向かってきて、話しかけてきました。 「失礼ですが、麻衣さんのお姉さんですか?」 私は少し驚きながら答えました。 「えっ……はい、そうです」 「大変なときに申し訳ありません。 実は妹さんからこの手紙を渡すように頼まれました」 黒いサングラスの女性はこう言って、手紙を手渡してきました。 私は、相手のことを知りたくて、すかさず質問しました。 「どちらさまですか?」 「私は入院中、妹さんにお世話になりました」 黒いサングラスの女性はこう答えると、軽く会釈をして向きを反対に変え、スーッと歩き始めました。 「あの、すいません……」 私は詳しい話を聞こうと、少し追いかけるように女性の背中に向かって声を掛けましたが、黒いサングラスの女性は振り向かず、そのまま足早に、屋上のドアから病院の中に消えていきました。
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