序章 ~翼~

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私からしたら、それは大海原に浮かぶ小枝、ほんの少しでも一矢むくいたい反骨心の現れ。 だって、とてもこんなところで死ぬわけにはいかない。私にはまだ、やることがある! 万感の思いを込め、獣の尾を思いっきり引いた! 「ッギャォオッ!?」 犬のような悲鳴は、口から出た。頭にのし掛かっていた重みは消え、慌てて私は獣から離れる。 『き、きっ、きさま、このッ人間如きがぁっ!』 うっすら瞳に涙が溜まっているように見えるのは、私の気のせいだろうか? 獣は引っ張られた尻尾をかばうようにお尻の下にしまいこむ。はっきり言って、果てしなく情けない姿。 「いきなり頭潰そうとしてくるからだ! 自業自得だろ!」 まだズキズキと頭が痛む。恨みを込めた眼差しでギロッと睨み付けてやると、獣は苛立ちを込めて前足で地団駄を踏んだ。 『儂はこれが仕事なんだ! ギアのマスターは皆等しく塵に還らねばならん!』 「それが横暴だって言ってんでしょ!? 理由を言え、理由を!」 『そんな簡単に喋れる程容易い理由ではないわ、たわけ! 死が嫌ならアンヘルのキーを寄越せ!』 「あんたソレって村のチンピラと同じじゃない!」 『なっ……!? 神聖なツクヨミに向かって、なんたる無礼な!?』 「無礼はあんたでしょうが! いきなりやって来て人を押し潰そうとしてんだから!」 ぐいっ。 放っといたらいつまでもヒートアップしそうな言い合いに終止符を打ったのは、それまで大人しく私に抱かれていた子供だった。
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