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はたと我に返った私は、また注意深くフードを被り直し、ゴーグルをつけてアンヘルの速度を徐々に落としていった。街は雨だからだろう、ぴったりと雨戸を閉ざして、ひっそりとしていた。
しかし、ここは今まで通ってきた村よりも数倍広く、大きく、立派だった。小さな門を、アンヘルを押して中に入れば、遠くからでもゆらゆら揺れて見えていた、街灯の灯りが目に眩しかった。
とりあえずは、と宿を探してみるけれど、ドンドン扉を叩いても、何も反応しなかった。
「くっそー……宿は客を取ってなんぼの商売だろ」
愚痴っても一人、仕方なく大通りを真っ直ぐ歩くと、この街のシンボルなんだろう、立派な一本杉がドンと鎮座在していた。
「雨くらい、しのがせてよね」
ぽん、と幹を軽く撫で、その根元に座る。複雑に絡み合った根は所々に地上へ這い出して、天然のソファを形成していた。
なかなかの座り心地――と、フードとゴーグルを外した瞬間。
ざわりっ! と、全身の血が引いていく音を、私は初めて聞いた。
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