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ひとたび街の中に舞い戻ってみると、先ほどとは打って変わって、皆家から飛び出した着の身着のままの格好で、石像のようにぼんやりと街の外を見つめていた。
人で溢れ、中には泣き出す者も居――しかし誰しもが共通して絶望と死を深く自覚し、生を手放しかけて……諦めていた。
やはり長いこの戦いの中でわかってしまっているのだろう。ヴォルツァが現れたが最後、自らに抗う術はなし、と。
人並みに、アンヘルの脚は止められる。しかし全く動こうとしない人々に、気持ちは分かれどイライラする。
「逃げる気がないなら、どいてくれ」
静かに、しかしはっきり響く声で、人々に言い放つ。
反応がないかもと一瞬思ったが――立ち尽くしていた若い女が、ゆっくりと肩越しに振り向いた。
「あんた、何する気だい……」
「決まってる。奴を、殺しに行く」
その私の言葉に――人々が次々と振り向く。
「死にたいのか?」
いやにきっぱりと、しかし声音は震えて、中年の男はぽつりと言った。
私は、軽く笑って首を振った。
「どうせ死ぬなら、せめて奴の脚一本でも道連れにするさ」
「……あたしたちを、助けてくれるの……?」
道端に座り込んでいた少女が、微かに生気を帯びた顔で、わずかな期待を込めて訊いた。
「……私は、正義の味方なんかじゃない。そんな力もない。
ただ、私が、私を許せないから……行くんだ」
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