序章 ~翼~

14/19
前へ
/19ページ
次へ
ひとたび街の中に舞い戻ってみると、先ほどとは打って変わって、皆家から飛び出した着の身着のままの格好で、石像のようにぼんやりと街の外を見つめていた。 人で溢れ、中には泣き出す者も居――しかし誰しもが共通して絶望と死を深く自覚し、生を手放しかけて……諦めていた。 やはり長いこの戦いの中でわかってしまっているのだろう。ヴォルツァが現れたが最後、自らに抗う術はなし、と。 人並みに、アンヘルの脚は止められる。しかし全く動こうとしない人々に、気持ちは分かれどイライラする。 「逃げる気がないなら、どいてくれ」 静かに、しかしはっきり響く声で、人々に言い放つ。 反応がないかもと一瞬思ったが――立ち尽くしていた若い女が、ゆっくりと肩越しに振り向いた。 「あんた、何する気だい……」 「決まってる。奴を、殺しに行く」 その私の言葉に――人々が次々と振り向く。 「死にたいのか?」 いやにきっぱりと、しかし声音は震えて、中年の男はぽつりと言った。 私は、軽く笑って首を振った。 「どうせ死ぬなら、せめて奴の脚一本でも道連れにするさ」 「……あたしたちを、助けてくれるの……?」 道端に座り込んでいた少女が、微かに生気を帯びた顔で、わずかな期待を込めて訊いた。 「……私は、正義の味方なんかじゃない。そんな力もない。 ただ、私が、私を許せないから……行くんだ」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加