序章 ~翼~

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更にハンドルを回して速度を上げ、体をぐぐっと無理やり伸ばし、足を反対に投げ出してバランスを取る。 「ぐォあアアアア!!」 怒り狂ったヴォルツァを横目に、精いっぱい腕を伸ばし―― 子供の体に触れた!――その、瞬間! バシィっ!! 「ぅあぁっ!!」 適当に振り回していた尾が私の背中を打ち、アンヘルから投げ出される! 頭が痛みで真っ白になり、意識が遠のきかける―― 地面に叩きつけられる寸前、握っている柔らかな感触を思い出し、無意識のままぐぃっと自分の方に引き寄せた。 どンっ!! 「ぐ……ッ!!」 内臓がぐっと押し上げられる感覚と、激しい全身への痛みに、苦言のひとつも言えずにうずくまる。 苦しみに耐える私の隣で、まるで寝起きのようにぼんやりと起き上がった子供は、目が覚めるような、女とも男とも見える、天使のような顔立ちをしていた。 「……に……げろ……」 痛みに絶え絶えになりながらもなんとか言うと、聞こえていないのか、虚空をぼうっと見やるだけ。 そうか、さっきの閃光弾が耳にまで―― 舌打ちしたくなる。こっちだって痛いのに……――! 「ァアォォォォ!!」 嫌にかん高い声で怒声を放つと、尻尾をバシバシ地面に打ちつける。 「――黙んな」 ドンドンドンッ!!! 体をなんとかひねって放った弾は、ことごとくヴォルツァを貫通し、周りに蒼い血を撒き散らした。 この銀の銃は、対ヴォルツァ用。人に当たっても貫通はしない。ヴォルツァを倒すためだけに、“あの人”がくれた――形見。
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