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――やった!
ぐらりと僅かに態勢を崩すヴォルツァを、地に臥せったまま見守る。
そのまま、立ち上がらないで……!
祈るように願う。もう私には、馬鹿重いアンヘルの機体を立てることさえ出来ない。
「グルルゥ……ゥオ……!」
苦しそうな低い呻き声。その濁った瞳は、怒りに満ちていた。
ギロリっ、と視線を私に走らせると、バシン! と尾を苛立たしく打ち付け、グググっと鎌首を持ち上げた。
――くそッ……やっぱり、駄目なのか……!
薄れゆく意識の中、腕の中の小さな温もりを思い出して、反射的に抱きしめる。
この子だけは。だめ。だめ……――!
『――情けない姿だな、マスター』
――ヒュッ!!
風を斬る音と共に、“何か”が私の側を駆け抜けていった。
「お……お前……!」
目に飛び込んできたのは、あの美しい獣。
ふさふさの尻尾をこちら側に向ければ、それが二またに分かれているのが分かった。
『ぬし、こんな蛇ごとき倒せぬのか』
いんいんと頭の芯から痺れるような、声なき声に頭を押さえる。
「なんだ……!? これ……!」
『儂の崇高なる言葉を、ぬし程度でも理解できるようにしておる』
「わ……私程度でも!?」
『大体ぬしは馬鹿か、愚か者か。いかな豪者を謳えど、人の子である限り無意味なこと』
ハンッ、と馬鹿にした目に笑われ、私は傷がズキズキ痛むのも一瞬忘れて、言い返してやろうとガバっと起き――
――れずに、がくんと痛みに倒れる。
「~~っ……!」
『愚か者が』
呆れたように言うと、軽くひと蹴り大地を蹴る。
それだけで獣の身体は、体重を感じさせず宙に舞い、見上げる程高いヴォルツァの視線まで上がっていく。
『さて――お祈りの時間だ』
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