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ウゥゥ、と狼のように、鋭い犬歯を覗かせながら威嚇する。
あんなに獣より大きなヴォルツァが、獣の姿を認めた途端、明らかな恐れの色を宿した。
のしりと虚空を一歩踏みしめ、唸りながら獣は言った。
『去れ』
短いけれど、私もぞっとするような迫力を持って、びくりと心臓が震え上がる。
その“声”が聞こえたのか、ヴォルツァは明らかに僅かずつ後退りしながら、決して視線を獣から離そうとしない。
やがてジリジリと下がっていくと、緊張感に負けたように、尾を翻して恐ろしいスピードで走り去っていった。
「……うそ……」
私は這いつくばったまま、その光景をぽかんと口を開けたまま見つめていた。
ふわりと音もなく下りてきた獣は、ふふんと勝ち誇ったかのような表情で私を見下ろした。
『おい、娘。名は何という』
「……レイカ……レイカ=スカーレット……」
『そうか。ではレイカ』
たしっ、と獣の前足が、私の頭の上に乗っかる。
「――ん……!?」
『ギアの持ち主…マスターというのを確認した。よって死ね』
そう物騒に宣言するなり、獣はぐぐぐぅっと信じられない力で足を押し付けてくる!
「いッ!?――だだだだッ! おいっやめろ!」
『マスターは排除されねばならん。残念だったな、弱き者』
みしみしと骨が悲鳴をあげる。視界が歪む。耳鳴りが酷い。強烈な痛みと吐き気の中、私は確実な“死”を感じていた。
必死に抵抗しようと、獣の足に手をかけるも、岩のように硬く、私の一切の抵抗を無視した。
『ククク……レイカ、そこらの虫より脆弱だな』
楽しげな獣の声が、わんわんと頭の中で響いてうるさい。
――と、その時。得意気にふさふさ踊る、獣の尻尾が見えた。
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