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「いらっしゃい」
投げやりな声に、ノイズのような男達の話声。しばらく村などないのだろう、昼はかなり過ぎたというのに、だらだらと酒や飯を喰らっている姿があちこち見受けられる。
空いている席にさっさと座ると、ちらりちらりとする視線が感じられる。……確かに、こんな辺鄙な場所に女がいたら、目立って仕方ないよな。
慣れたことなので、全く無視して店の親父に適当に食事を頼み――こちらの方が大切なのだが――「ユイル」のことを尋ねてみた。
「ユイル? そんなもん……こんなとこにねえよ。何に使うんだ」
「あれ」
目で指す先には、私の相棒――“アンヘルギア432R”と銘打たれた、なめらかな曲線を描く『ギア』が、日の光を浴びて黒々と艶めいていた。
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