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「はあ…あの立派なギアは、姉ちゃんのもんかい」
「触るなよ、親父。繊細なんだから」
「分かってるよ。全く、肝の座った姉ちゃんだよなァ」
――この世にあるギア、それは全て、過ぎたる日の遺物。
盛者必衰の理、なんて格好付ける訳じゃないけど、栄えに栄えた大昔のご先祖様達は“ある時”を境に、ぷっつり文明の礎を投げ出した。
街や村は滅び、廃れ、野獣が大地を独占した。
その昔の忘れものとして、ユイルを燃料として走る金属の二輪の馬、“ギア”がある。
中にはしょぼいもんもあるが、その一台一台は間違いなく突出した運動性を持つマシンで、幻とまで言われている。
事実店の親父はよっぽど珍しいのか、私の飯を従業員に任せ、窓から子供のように熱い視線を送っている。
――ここも面倒が起きる前に、早く立ち去りたい……
ユイルがなければ意味がない。そう簡単に手に入るものではないとは言え、そろそろ私のギアもカラッポが近い。
「はい、お待ちどおさまです」
おかみさんらしき、ふっくらした女性がお盆を机に置いてくれた。礼を言って、フォークを手にとり、ナイフを――
「やあ、ちょっと」
――手にする前に、ごついナイフが私の肉に突き刺さった。
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