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突き立てられた肉から、じゅわぁーっと肉汁が溢れていく。素晴らしくミディアムに仕上がったステーキに、無粋にもナイフを刺した大馬鹿者は、なかなかの優男だった。
「話が、あ」
「ギアはやらんぞ」
わざと被さるように言葉を吐き付け、ギロリと男を見上げる。太陽を切り取ったような陽気な金色の髪をふわりとかきあげ、少しこめかみを揺らした。
「……ギアなんて珍しいもの、僕初めて見たからさ」
「やらんと言った」
白いシャツには、目立たない程度にフリルがあしらわれ、さりげなく散りばめた宝石は、嫌みでないほどに、この男を飾り立てていた。しかしそんなことは今どうでもいい。大事なのは――
「このナイフを今すぐどけろ。“酷いこと”に遭いたくなければな」
「おお、怖いこわい。あなたみたいな華奢な人に、その台詞も、口調も似合わないよ?」
優男の見下した目に、ちろりと下卑た光が宿るのを、私はしかし見逃さなかった。
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