序章 ~翼~

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「……素直に従った方が、身のためだと思うよ。お嬢ちゃん」 よそで様子をうかがっていた男たちが、銃を手に合わせたように動いて、私を取り囲む。 「ギアのキーさえ、ぽんと机に置くだけだ。それできみは何事もなく食事を続けられる。万事解決じゃないか」 にっこりと言う顔はしかし、油断も隙も見せない。食えん笑顔だった。 ……こういう無粋なことをする連中とは、何かが違う気がするが……それでもギアを狙ってきている事実に、変わりはない。 「……分かった」 かたん、と椅子を引いて席を立つ。ワインのように深い赤をした私の長い髪が揺れた。 取り巻きの一人が、神経質に座ってろとわめき散らした。が、子犬に吠えられるより迫力を感じなかった。 「キーが欲しいんだろ? 私も、面倒事は嫌いなタチでね」 優男の笑みは、微動だにしない。私はゆっくりと、マントの中に右手を伸ばした。男たちの視線が、私の手に集中する。……空気がピリピリして、痛い。 「やるよ、これが……」 チャリっ、と硬質な手触りを感じる。 「――欲しいんだろ!?」 ――っチャリィッン!!
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